揺れる臨床心理士のアイデンティティ

アイデンティティの迷い その他

多様な現場に従事すると、臨床心理士のアイデンティティに揺らぎが生じることもあるでしょうか。

もちろん、総合病院に従事する臨床心理士の活動でも述べたように、多様な現場に触れるからこそ自身の存在意義や専門性が浮き上がってくるということもあります。

今回は揺らいだ場合という線の話です。

臨床心理士のアイデンティティ

カウンセリングマインドという言葉はいつ頃から使われるようになったのでしょう。

これは正式な用語というよりは、日本で作り出された造語のようなものです。

厳密な定義がなされているとは思えませんが、概ねカウンセラーのような精神で、人と関わろうとする意味合いで使われます。カール・ロジャーズの受容共感、自己一致などのことを指しているのだと思います。

例えば、産業領域においての新人育成や部下の指導場面でカウンセリング・マインドは生かされています。

教育の中でも教師が生徒に対するとき、看護においても看護師が患者に接するときなど非常に多岐にわたります。

関連サイト:カール・ロジャース

指導をやめた教師

さて、カウンセリング・マインドということを意識し始めると多くの疑問に直面することになると思います。

例えば、宿題を忘れて来た生徒に教師はどう応えるのでしょうか。

「先生も学生の頃はよく忘れてたなぁ、わかっちゃいても手がつかないもんなんだよなぁ・・・」

などと、指導をやめてしまって良いものなのでしょうか。いや、時々で使い分けるもの、と考える方もあるかもしれませんが、なんだか一貫性が保たれない態度になりそうでもあります。

教師が生徒を叱ってはいけないのでしょうか?

いつしかカウンセリング・マインドを失くしたカウンセラー

不思議なことに、カウンセラー側がカウンセリング・マインドを失くしてしまうことも度々起こります。

いつの間にか、「先生の言うことをしっかり聞くべきなんじゃないかなぁ・・・」「お母さんを心配させるのはもうやめたほうがいいのでは・・・」、「二度とやらないと約束してくれないかなぁ」などと、カウンセラーらしからぬことを言い出すことがあります。

逆に、先でも触れましたが、時にカウンセラーが誉めることをカウンセリングであるかのように思ってしまう勘違いが起こる事さえあります。

アイデンティティが揺らぐときは自分自身の在り方に迷いが生じた時か

蕎麦屋の人はラーメンも打てるのでしょうか。

そう簡単なことではないと思います。

蕎麦屋がラーメンを打ちたくなる心情とは、蕎麦への迷いが生じたときであるかもしれません。

同様に、心理カウンセラーがソーシャルワークや教育・法律・医学などを学びたいと思ったときは自分自身の専門性に迷いを覚えた時であるのかもしれないと感じることがあります。

カウンセラー側は、むしろカウンセリングに迷いを感じたから、別な専門職の方向へ走りたくなるのかもしれません。

時に臨床心理士の資格を更新しない人もあるのではないでしょうか。

カウンセラー以外の専門職例えば教師が、教育に迷いを感じたなら時に臨床心理士の大学院に入学する方もあるでしょう。

どういういきさつにせよ他の領域の人の専門性を学ぶことには意義深いと言えるでしょう。しかし、自分自身が何者であるかを忘れるべきではないと思います。

この迷いにも意味があるのかもしれません。

むしろ迷うことが必要であったとくらい言ってしまいたくなることもあります。

カウンセリングを学んだ人がいつしかカウンセリングへの興味を失くすことも良くあることですが、カウンセリングに失望して教育を真似したカウンセラーが、いつしかカウンセリングの方へ再びどっぷり浸かるなどということもよくあることです。

それは自らの専門性を再確認するために必要な時間だったのかもしれないわけです。

蕎麦屋で考えれば、蕎麦打ちに疑問を感じた人が、ラーメン屋へ転職し、数年の修行の後、やはり自分は蕎麦屋だったのだと元に戻るようなことがそれにあたるでしょう。本当にありそうな話です。

自分自身が納得いかない

臨床心理士会のHPなどを見れば、その活動や理念は確認できます。

当の自分自身が納得いかないこともあるでしょう。

  • そもそも自分のオリエンテーションとは一体何だったのか?大学院ではごっちゃにいろいろ学んだが、どれも中途半端な気がする。
  • ケースを担当する事こそが臨床心理士なのではないか?しかし、そんな業務はうちの職場にはないぞ・・・
  • 心理職とは福祉職なのではないか?いや・・・では精神保健福祉士と何が違うのか・・・
  • 心理面接を行ってるつもりだけど、君はミニ医者か!と怒られてしまった・・・。
  • 看護師も患者さんの話に寄り添っていますよ、あなたとは何が違うのかね?(医師より)

私見

私見では、やはりその専門性の中核は「心理療法」にあると捉えています。これには異論反論大きいでしょう。世の中を見渡せば、もっと多様な活動がなされているからです。

「心理療法」を行っていると思っていても、そうでないものになびいてしまっていることも自覚無しに訪れるようでありますし、難しい所です。

まとめ

臨床心理士の職域は他領域にわたります。そしてそれらの領域で期待されるテーマも異なります。

そして、福祉関係、医療関係、教育関係と現場を掛け持ちしている者も少なくありません。むしろ主流と言えるほどです。

このような中で臨床心理士自身が、自らのアイデンティティを確認しておいくことは重要であると考えています。

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