臨床心理士を支えてくれる幾つかの本

先人の知恵・結晶 その他

カウンセリングを実践する中で、先人の知恵は大きな支えとなります。

確かに、本からでは学びえないことはたくさんありますが、本を通して学べることもまた多いものです。

そして、その本にカウンセラー自身が支えられていると言っても過言ではないでしょう。

カウンセリングを志す者たちを支える先人の本

カウンセリングの本を探すと言っても、それでもどの本を読んでいいか迷ってしまうことがあります。

幾つも本が並んでいるし、レビューも参考にはなるが、書かれていない本もあれば、たくさん書かれていて益々迷うということもあるでしょう。

このような時、一つには片っ端から読んでいくという方法もありだとは思います。全部読むことで、相当に得るものは多いでしょう。

しかし、これを実践するにはかなりの根気が必要になりますし、時間や予算、労力も多くなっていきます。また、場合によっては、まとまりがつくまでに時間がかかることもあるでしょう。

様々な学派がありますが、自分のオリエンテーションとは異なる分野の先生が書かれた本からも多くの示唆を得るものです。その本を手に取るタイミングというものはあるかもしれません。

伊東博「カウンセリング」 1995 誠信書房

伊東先生のカウンセリングは、日本におけるカウンセリングの源流に近づくことができるでしょう。あわせて、伊東先生と活動を共にした友田不二男先生の著作も必見です。

伊東博のカウンセリング(関連サイト)にて詳述しています。

友田不二男 「カウンセリングの技術」 1956 誠信書房

伊東博先生と活動を共にした友田先生の著作です。総量も多く読み応えがあります。

河合隼雄「心理療法序説」岩波書店 1992

ご存知の通り、河合先生は日本にユング心理学を紹介した人物です。

心理療法とは何か?と疑問を持ちながら活動している臨床心理士は数知れません。その一つの答えをこの本から得ることが出来るのではないでしょうか。

ほとんど定義は不可能としたうえで、心理療法の定義を試みています。集大成であり、敢えて「序説」というタイトルです。後続の心理士達は、この序説からさらに歩みを進めて行かなければならないのでしょう。

成瀬悟策「動作療法」2000 誠信書房

心理療法は言葉によるもの、という認識は覆されます。臨床動作法(関連サイト)は動作を主たる援助手段とする方法です。不思議な事に、動作法を学ぶと言語面接への理解も促進されます。つまり、心理療法は根底では繋がっており、それを「体験」という概念で整理しています。

そして、「からだ」への注目は動作法に限った視点ではないと考えるようになりました。身体レベルでの仕事しかしていないのです。

神田橋條治 「精神科講義」2012 創元社

神田橋先生の著作はたくさんあります。この本では神田橋先生の考えに触れることが出来ます。

神田橋先生は精神科医ですが、長きにわたって臨床心理士を支えています。

岸本寛史 「癌と心理療法」1999 誠信書房

この本は、癌を罹患された方への心理療法について書かれています。セラピストは何を考え病棟に立ち入るでしょうか。

この本の連想から「そしてカウンセラーはいなくなった」を書きました。

また、「傷ついた癒し手」について考え始めたきっかけともなりました。

最相葉月 「セラピスト」2016 新潮社

この本の著者はセラピストではありません。しかし、関係者へのインタヴューなど熱心な取材に基づき書かれています。中井久雄先生も登場します。日本の心理療法の歴史を知ることも出来るでしょう。

もしかすると、悔しいと感じる方もあるくらいだと思います。自分でまとめたかったという心理臨床家の方はいないでしょうか?

臨床心理士のアイデンティティを見失った際にも、何かを見出せる本となるかもしれません。(関連:揺れる臨床心理士のアイデンティティ )

恩師や先輩などの先人に尋ねる

自分の尊敬する先生や指導を受けている先生から、本を紹介してもらうという方法もあって良いのではないでしょうか。(例えば、電話して聞いてみるなど。)

おススメの本

中には、「自分で探すように」とおっしゃる先生もいるかと思いますが、もし尋ねられそうな雰囲気であれば、おススメの本を伺ってみるのも良いのではないでしょうか。(もし、先生が出版されている本があるならば、その本は読んだうえで伺うと良いのではないでしょうか。)

しかしながら、先生が勧めてくれた本が、必ずしもその時に、求めていた本とは異なる可能性はあります。

的がずれたからと言って、先生に因縁をつけるべきではなく、やはり自分で探すことが肝要なのでしょう。また、気を利かせて本を貸してくださったなら、興味のない内容だったとしても一読してお返しすることが礼儀でないでしょうか。

決して、読むのが大変だからといって、何年も返さないのはよくないことです。

その本にまつわるエピソードを聞いておくとモチベーションが高まる

例えば、「この本は、心理臨床家必須の一冊です」などと説明があった本をお借りしたらどうでしょう。

もちろんプレッシャーもありますが、読まなければ、一人前になれない気がします。逆に、誰しもが通った道をいよいよ自分も歩くのだと思ったら、モチベーションも上がるかもしれません。

本を読む際は、このような意味を持たせると、退屈しないように思います。とはいえども、タイプの合わない先生がいることも事実です。

その場合は、タイプの合う先生を見つけることにも意味があります。本と言うのは、読み心地がとても大事なことだと思っています。

中には、どうしても受け付けられないよう本もあるものです。それを無理して読破するよりも、なぜ受け付けないのかを考えることの方が重要だったりします。

後書き

心理療法は本だけからは学び取れないと言う人もいます。しかし、先人の知恵に支えられることは多々あり、そういう意味でも本に触れる意義は深いものと感じています。

臨床心理士として現場で感じた疑問の数々があります。こんなことが起きるのか・・・と怒りや迷い、屈辱、絶望感などを感じるものです。

そんな時、手に取った本にはまさに先人の知恵(苦悩も)が詰まっており、どこか支えられた気持ちになったのでした。

まだまだ先人の知恵が宝庫のように残されていると思っています。

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